心理療法/カウンセリングは、効かないこともあるの?

 

 あります。

 

 ~ 以下長文です ~

 

 当然、心理療法/カウンセリングは万能ではありませんから、そもそも適用ではないものに効果はありません。

 

 例えばガンやエイズといった身体疾患、精神科疾患で言えばてんかん等ですが、それ自体を心理療法単体で治すことは出来ません。

 

 しかし、そういった疾患を持ちながら生きて行く為のお手伝いや、治療の一環としても心理療法は用いられます。

 

 心理療法の適応ですが、疾患であれば、うつ病やパニック障害、心身症などが挙げられます。

 

 この場合、「きちんとした心理療法をやりきれば」という前提あっての話となりますが、多くのケースで効果は生じると考えられます。

  

 では、適応であるはずなのに「効果が無い」と評価される場合は、何が原因となっているのでしょうか。

 

 まず、臨床家側が単に未熟であったり、熱意と冷静さに欠けていたりといった原因があり、それがプロとして成立しない程に重度なのであれば、心理療法の効果は出ないでしょう。

 

 しかし、これは心理療法そのものに効果が無いということを意味せず、その臨床家個人の能力や姿勢に不足があることを意味します。

 

 つまり、その臨床家の行いは、そもそも心理療法として成立していない可能性がありますので、そういったパターンは除外し、ここではその他、いくつかの可能性をご説明します。

 

 よって、当欄では来談者に属する要素への言及が多くなりますが、上記にある様に、臨床家側に帰属される要因を否定するものではありません。それだけ多くの成功要因/潜在力が来談者側にあるということです。

 

 なお、来談者と臨床家の相性という要素も存在しますが、これも個人的要素であり、別項目(傷付く事もあるの?)でも触れているので、本項目では除外しています。

  

 また、分類は便宜的なものであり、各要素が明確に分かれている訳ではなく、むしろ絡み合って存在していることがほとんどです。

 

 それでは説明をはじめます。

  

 第一に、心理療法を受けたことはあるが、最後までやり抜いていない、という場合が考えられます。つまり、中断してしまっている場合です。

 

 例え世界一実力のある心理臨床家であろうとも、中断に至っては効果は出せないでしょう。

 

 世界一の実力があれば、そもそも中断に至らないだろう、という意見もあるでしょうが、これがそうでもないのです。

 

 中断という現象、つまりは「今ある関係を断ち切る/回避する」という行動パターンが問題の中核にあり、そのパターンが面接の場にも持ち込まれている、ということがあるのです。

 

 こういった場合、臨床家としては、まさにそのパターンを扱いたく望むものですが、来談者が回避のパターンに飲み込まれてしまっている場合、中断が選択されることが多くなります。

 

 こういった中断を避ける為には、今の臨床家とネガティブな思考や感情を含め、率直に扱って行くことが必要となりますが、そうしたくても出来ないからこそ中断に至るのであり、ここにも大きな難所があります。

 

 しかし、その難所を共に乗り越えることも臨床心理士の仕事の1つですから、是非、関わっている臨床家とオープンに対話をしていただければと思います。そこで一層の信頼関係が育まれると思います。

 

 来談の維持促進と強制は異なる等、慎重に考えねばならぬことも多く、中断は重要なテーマだと言えます。

    

 第二に、心理療法のルール(適正な頻度等)を守っていない場合が考えられます。

 

 普通、心理療法は週に1回50分という約束で行われますが、この約束が守られない場合、効果を生じさせるのは、一層に難しくなります。

 

  第三に、変化への意志/目的意識(モチベーション)が低い場合が考えられます。

 

 この場合、扱うべき課題を継続して扱えずに話が脱線したり、約束したホームワークを行わなかったり…といった事が起こり、心理療法の進展は遅れます。

 

 もちろん、この修正も臨床家の役割の1つなのですが、それはそれとして分析が要されるため、時間がかかるものです。

 

 また、そもそも「悪いのは周囲(世界)の方なのだから、変わる努力をすべきは自分ではなく周囲(世界)だ」と、世界が変わることを一方的に望む方も少なからずいらっしゃいます。

 

 この場合、「世界が変われ」という願いはありますが、「自分が何とかして行こう」というモチベーションは希薄です。

 

 その結果、「効果が出ない」「解決しない」と認知され、中断の可能性が高まります。

 

 第四に、「治るわけにはいかない人」である可能性が挙げられます。

 

 疾病利得という心理メカニズムがあり、これを保存するために、困っている状態から抜けられない場合があります。なお、これは意識的に行っている仮病や詐病ではありません。辛さは実在しますし、改善も望みます。

 

 例えば、「自分の具合が悪い時だけ両親の喧嘩が収まる」という経験をした子供は、無意識的に体調不良となり、両親の喧嘩の発生を防ぐ等する可能性があります。よって、治りたいが治れない、治るわけにはいかないという状態になります。

 

 もちろん、こういった状態を分析し、変容するまでが臨床家と来談者、そのご家族の仕事となります。

 

 第五に、心理療法の効果に気付いていない、又は、効果を否認する場合が挙げられます。

 

 中には、「自分を認められない」「自分が嫌いだ」と訴えていた方が、「このままの自分で良いのかな、と思えて来ました」と変化した結果、「そもそもカウンセリングに来る必要は無かったですね」等とおっしゃる事があったりもします。 

 

 ある心理療法の大家は、「何だかよく分からないけど良くなっていた、といった状態が心理療法の最も良い流れだ」と語っており、臨床家にすら効果の「実感」は無いものの、実際には大いに変化成長している、という事も少なくないようです。

 

 第六に、「心理療法の方法論と来談者の状態のミスマッチ」が挙げられます。

  

 例えば、パニック障害の心理療法の場合、第一選択とすべきは認知行動療法ですが、その臨床家が認知行動療法を行えず、他の心理療法を行った場合、又は、来談者は「とにかくゆっくりと話を聞いて欲しい」と望んでいるのに、パニック障害だからという理由で、認知行動療法のワークのみになった場合など、「効果無し」と判断されてしまう可能性があります。

 

 話は少し変わります。

 

 効果に関しては、そもそも「何をもって効果があったと言えるのか」という問題もあります。これを「効果の有無の判断」と「中断」とを絡めて説明します。

 

 主訴が解決すれば、はっきりと効果があったと言えるでしょうが、そもそもの主訴が「幸せになりたい」等、来談者の主観的評価以外に評価軸が無い訴えですと、効果の有無の判定は難しくなります。

 

 主訴がはっきりしている方の場合、そこに変化が生じれば効果あり、と判断されるので分かりやすいのですが、当方の様な心理施設の場合、誰もがはっきりとした主訴を持っている訳ではないので、ここが判断を難しくするのです。

 

 「パニック障害を治したい」という主訴であれば、パニック発作や広場恐怖が消失すれば効果ありと判断されるでしょうが、「幸せになりたい」といった目的ですと、そもそも何がその方の幸せなのか、他者との関係性の良好化なのか、自己受容の問題なのか、といったところから分析せねばなりません。

 

 すると、その分析に時間がかかる為、来談者からすれば変化を感じづらく、「効果が無い」と判断される可能性があります。

 

 それでも来談を継続して行くと、その方の「幸せ」が何なのかが明確化され、ではその幸せを掴むためには何が必要なのか、といったことを考えられるようになります。

 

 実は、このプロセス自体が心理療法/カウンセリングの大事な、そして大きな一部なのです。

 

 その様に自分の心をまとめて行く作業をやり抜いて行くことが重要なのですが、これには時間がかかります。

 

 しかし、当人からすれば、「幸せになりたいのに、なかなかならない」と感じるのも当然で、「効果無し」と判断されてしまう事があります。

 

 すると中断に至る場合があり、こうなると来談者が望む「幸せの獲得」という「心理療法の効果」は出なかったと判断される可能性があります。

 

 この様に、「何をもって効果があったと言えるのか(目的意識)」と「効果の有無の判断」と「中断」には密接な関係がありますから、効果を実感出来ない場合、中断という選択をする前に、是非、ご自分の臨床家と「何がどうなれば効果があると判断出来、その為には何が必要なのか」をもう一度話し合ってみてください。

 

 蛇足ですし、冗談の様ですが、少なくない例なので以下に記します。

 

 心理療法/カウンセリングとはどういったものなのかを知らないまま、効果は無いと思い込み、そもそも利用しようともしない、むしろ避けるといった方が居ます。

 

 この場合、正確には「効果は分からない」ということなのでしょうが、効果無しと信じ、臨床家を活用することは無いため、当然、効果を知る事もないわけです。

 

 そもそも数が少ない臨床心理士です。もし、通える範囲に臨床心理士が居るのであれば、思い込みで使わないというのは、とても勿体ない話だと思います。「ちょっと試してみようかな」といったところからでも構いません。是非活用していただきたいものです。

 

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